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リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『ライフ・シフト』


100年ライフの大きな特徴の一つは、ライフスタイルと人生の筋道が多様になることだ。どのような人生を生きるかは、一人ひとりの好みと環境で決まる。多様性の時代には、決まったお手本に従っていればいいという発想は通用しない。本書でさまざまな人生のシナリオを紹介するのは、長寿を厄災の種ではなく恩恵の源にするように、3ステージの人生に代わる有効な選択肢がありうることを示したいからだ。(p.179)

医療や公衆衛生の進展により、人間は100年生きることが普通になっていく。現代は明らかに、それ以前の時代と比べて人生の時間が圧倒的に長い。我々の生き方も、この長寿時代にあって変わっていなければならない。若い時に教育を受け、教育機関を出て仕事をし、老年に至って引退するという3ステージの人生は通用しなくなっていく。高齢化社会を迎えた日本では、こうした長寿時代はややマイナスイメージをもって語られる。老後の生活資金や介護費用など。本書は、人間が100年生きることが普通になった社会で何が求められ、どういった人生を送ることができるかを模索する。暗いトーンというより、明るいトーンで書かれている。

キーポイントは、人生は教育、仕事、引退の3ステージからマルチステージになるということ。つまり、人々は人生において複数のキャリアを持つようになる。あるときは仕事をし、ややステップバックして教育を受け、また仕事をするなど(p.25-27)。人生は長いから、ずっとフルタイムで仕事をするようなエネルギーは持ちえない。60歳までならともかく、80歳を超えてまで全力で働くのはかなり難しい。そこで仕事する時期、しない時期を切り替えながら人生を歩むモデルを著者たちは提示する。

そもそも雇用関係も変化していく。大企業が雇用を独占する時代から、中小企業が大企業の周りに集まりエコシステムを作る時代の変化。それは雇用の機会を多様化させることになる。中小企業で専門性が高い職や柔軟な働き方が生まれる(p.94f)。いままで高スキルの頭脳労働はテクノロジーによって代替されるのでなく補完されてきたが、今後は代替されるだろう。その兆しはもう出ている。だが、人口減少社会では、これは悪夢でなく福音だ。「ロボットに雇用が奪われることを心配するより、ロボットが労働力人口の縮小を補い、経済生産と生産性と生活水準を保ってくれることを歓迎すべきだろう」(p.112)。テクノロジーの観点からは、人間の労働者は機械に取って代わられ、いくら教育に投資しても安定したキャリアを築けなくなる。しかし経済学の観点からは、状況はもっと明るい。テクノロジーはそれが補完するような雇用を生むし、経済生産を増やして雇用を増やすし、まだ予見されていない新しい製品やサービスが登場し、新たな産業が台頭する(p.115f)。

単に断続的に仕事をするのでない。仕事に関しても変化の激しい時代。その都度必要とされるスキルを身につつ、仕事を変わっていく。こうした動きにとって重要なのが、無形資産だと著者たちは言う。ここでいう無形資産とは人間関係、知識、健康のこと。これらは得難いものであるし、さらに結局は有形の資産(金融資産)を生むものだ(p.120-124)。「長寿化時代の真の課題は無形の資産のマネジメント」(p.381)なのだ。

こうした無形資産は、生産性資産、活力資産、変身資産という三つの役割を与えられている(p.127-167)。生産性資産は仕事の生産性を高め、所得と今後のキャリアの見通しを向上させる。知識やスキルがもっとも分かりやすい。仕事環境としての同僚・チームや人脈、転職にあたって大きく寄与する評判なども挙げられている。活力資産は健康、友人など。幸福感と充実感を与えるもの。親しい友人たちのネットワーク(著者グラットンの前著で「自己再生の友人関係」と呼ばれたもの)、健康、そしてライフワークバランスである人生のバランス。変身資産とはステージの移行をうまく行うために必要とされるもの。それは自分がどう生きて何をしたいのかというアイデンティティ、新しい世界の情報を得る大規模で多様性に富んだ人的ネットワーク、開かれた姿勢が挙げられる。

教育・仕事・引退の3ステージに代わって(あるいは加えて)、ステージとしてはエクスプローラー、インディペンデント・プロデューサー、ポートフォリト・ワーカーというステージが書かれている。エクスプローラーのステージとは、冒険し、様々な新しいものに出会う「るつぼ」のなかで自分を問い直すステージ。学生のギャップイヤーが少しイメージに近いが、ギャップイヤーの長期版ではない。このステージに適した時期として18~30歳、40代半ば、70~80歳があげられている。これらは人生の転機になりやすいからだ(p.234f)。ただし、単なる放浪の旅ではない。きちんとした計画を立てなければ、有益な結果は得られにくい(p.231-239)。

インディペンデント・プロデューサーとは、自分の職を生み出すステージ。企業組織に属するのではなく、独立して仕事を行う。これは組織に雇われず独立した立場で生産的な活動を行うことが主眼。起業して成功することが目標なのではない(p.239-249)。ある程度経験を積んでからのフリーランサーとしての活動や、シニアの起業などがこれに該当する。経済的に成功する以外の起業のモデルというのは一般的にはあまり明確でなく、本書のこの概念は役に立ちそうだし、深堀りが必要だろう。背負っているものが比較的少ないので、安心して失敗できると著者たちは記す。起業のリスクが高い日本では事情が別だろう。

ポートフォリオ・ワーカーとは異なる種類の活動を同時に行うステージ。副業から始めて徐々にそれらが同じ重みをもつに至る。仕事のポートフォリオのなかから、次のステージへの移行を準備するものが生まれる(p.249-253)。これら3つのステージの間の移行期間として、二つのタイプの移行期間が挙げられている。無形の資産(健康、家族・友人関係、知識)に投資するエネルギー再充填型。新しい知識や人的ネットワークに投資する自己再創造型(p.258-260)。

本書を通じて流れるのは、長寿時代におけるアイデンティティの重要性(ちなみに、この文脈で社会学者ギデンズへの参照が多いのは興味深い)。人生が長くなるにしたがって、多くの変化や経験をする中で自分のアイデンティティとは何かということが問題になる(p.37f, 357-360)。アイデンティティは変化する。長い人生で多くの転機があればアイデンティティが変わり、感情のこもった友情関係を維持するのも難しくなっていく(p.149)。人生が長くなると不確実性が増し、将来の予測可能性が減る。未来に向けて適切な行動を取るには、ありうる自己像について考えていなければならない(p.179f)。100年以上に渡って生産的に生きるには、計画と実験が必要。長寿化により選択の幅が増えていくので、よく計画しないと一貫した選択にならず、悪い結果を招く。選択肢が広がってロールモデルが見出しにくいため、実験して何が自分にはうまくいくのかを知る(p.360-362)。

そして長い人生を支えるのが、自己効力感と自己主体感。自己効力感とは自分ならできるという感覚で、自己主体感とは自分のこととして自ら取り組む姿勢とセルフ・コントロール。無形資産の構築・維持であれ、有形資産の構築であれ、この二つがきわめて重要なものとして扱われている(p.262f, 273-287)。本書の伝える根底のメッセージはこの事故効力感と自己主体感にあるだろう。

未来の話をする本だからか、歴史的な考察は薄め。例えば、1880年代のイギリスやアメリカでは高齢者の就業率は今よりずっと高い。イギリスでは65歳以上男性の就業率は1984年では8%だが、およそ100年前の1881年では73%。1880年のアメリカでは65~74歳の80%が雇用されていた。3ステージの人生とはここ100年もないとてもローカルなものだ。この変化が何を意味するのか、本書に無いのはそうした視線だろう。
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プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。
しかし博士号は取らずPh.D. Candidateで進路変更。
哲学と特に関係なくIT業界に住んでいる。

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