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柳川範之編『人工知能は日本経済を復活させるか』


冒頭の二人(松尾豊、石山洸)は人工知能についての論考。それ以外の4章は人工知能の話というよりは、無形資産の話。有形資産と違って無形資産は目に見えず扱いづらい。無形資産への投資がうまく行かなかったことが、日本経済の失われた20年の一因という論調。前二人の人工知能論は全体の文脈からは、どちらかというと浮いている。

人工知能という言葉はすっかり流行っているが、その議論は玉石混交。松尾は、人工知能の議論が難しい原因を3つの側面から説明している。その時代の先端的情報技術が何でも人工知能と名付けられるという呼称の問題、知能が何であるかそもそも定義が困難であること、定義できてもその適用範囲があまりに広いことの3つ(p.20-22)。人工知能が職を奪うという議論に対しては、人工知能によって無くなるのは職ではなく、タスクだとするマッキンゼーレボートを参照して脅威論を緩和(p.32f)。さらに、深層学習への投資の3つの問題点として、機械学習の結果の信頼性・説明可能性、年功序列の人事制度との不調和、最終製品を念頭に置いた大規模投資の事業戦略を述べている(p.38-43)。解決策としての学習済みモデルを生産する学習工場を挙げる。ともあれ、学習工場はこの3つの問題点も解決しない気がする。

石山はいまはデータサイエンティストが主に担っているAIを誰もがAIを使えるようになる世界を、データサイエンス3.0として描く(p.55-60)。その手段として、彼自身がリクルートAI研究所で培った、Goods(グーグルのデータ管理システム)とDataRobotを挙げている。職業脅威論に対して、AIが補助することにより職業に必要なスキルが減れば、職業は広い人に開放され、雇用機会が増えるとも言えるという視点(p.63f)。これは面白い。

残りの章は無形資産の話。日本の失われた20年は生産性の低下にあるとする。生産性が上がらなかったことは、ICTをはじめ無形資産への投資と活用に問題があったことが一因。ただし問題はICT生産産業(電気機械、通信など)でなく、サービス投入産業、特に流通業だという(p.76-78)。こうしたICT投資を阻害した構造的要因としては、サービスの価格が諸外国より高いこと、流通業では中小企業が多く高額の投資ができないこと、ベンダー市場が未成熟ことが挙げられている(p.85-87)。

情報化投資は単にソフトウェアや情報サービスを揃えれば良いのではない。人や組織への投資など補完的な投資と一緒になって効果を上げる。そうした複合的な情報化投資の例として、早和果樹園、旭酒造、常石造船、未来機械を挙げている(p.118-129)。

無形資産には企業会計や国民経済計算では(研究開発費と並んで)扱いが難しい(p.163-179)。無形資産への投資は、需要側の短期的な需要創出効果(モノやサービスを購入することで経済が回る効果)から、供給側の生産力効果(投資により資産が増えたり生産性が上がったりする効果)が重要になってきた。この供給側の効果は、統計的に把握できない部分が少なくない(p.196-205)。投資を促進するためには、イノベーションインフラ、プラットフォームの準備が重要(p.228-239)。
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坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。
しかし博士号は取らずPh.D. Candidateで進路変更。
哲学と特に関係なくIT業界に住んでいる。

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