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アレックス・ペントランド『ソーシャル物理学』


社会物理学とは、情報やアイデアの流れと人々の行動の間にある、確かな数学的関係性を記述する定量的な社会科学である。社会物理学は、アイデアが社会的学習を通して人々の間をどのように伝わっていくのか、またその伝播が最終的に企業・都市・社会の規範や生産性、創造的成果といったものをどうやって決定づけるのか、私たちの理解を助けるものだ。(p.16)

MITメディアラボで社会物理学という分野を切り開いてきた著者による解説本。人々のつながりをネットワークとしてモデル化し、その間にアイデアがどういう条件でどう流れていくかを分析する。本書は基本的には数式を抜きして、社会物理学のコアなアイデアを解説し、応用を展望している。社会物理学を使って最適なアイデアの伝搬が可能になれば、市場の暴落を防いだり、人種・宗教間の対立を回避したり、政治的な膠着状態を脱したり、腐敗や権力集中を防ぐことのできる社会すら実現可能である(p.31)。

付録に数学と題された章はあるが、ここもそんなに数学的内容は深くない。基本は潜在マルコフモデル。ある人がある人にアイデアを伝搬する確率を条件付き確率で表現する。人々のつながりはグラフなので、二人の間のつながりしか見ていない。つまり、「三人寄れば文殊の知恵」のような、複数人が集まったときに初めて可能になるアイデアの創造や伝搬は考慮されていない。複数の条件による条件付き確率は、条件の一つ一つ単独の条件付き確率の和(の重み付け)になる(p.104, 314)。

ネットワークとしてのあるコミュニティが外部からアイデアを取り入れたり、内部で発生したアイデアを拡散していくには、最適な条件が必要だ。すなわち、コミュニティが新たなアイデアを求める探求のフェーズと、コミュニティ内部でのアイデアの伝搬や浸透のコミットメントのフェーズの二つがあり、それぞれが独自の法則を持つ。コミュニティ内部でのエンゲージメントが頻繁に行われる一方で、コミュニティ外部への探求が少ない場合、硬直化し偏狭な考えを持つ社会が生まれるのが普通だ(p.240)。

特にコミットメントは、単純にコミュニティ内の人のつながりが深ければよいわけではない。著者の課題意識の一つは、我々の世界が「つながりすぎている」ことにある。現在のつながりすぎた世界では、同質のアイデアが支配的になってしまう。著者はこれを、エコー・チェンバー(共鳴室)の比喩で語っている。アイデアの流れが早すぎれば、多様なアイデアが失われ、同質のアイデアがコミュニティ全体に共鳴するように響き渡る。これは、ブームやパニックを多く生んでしまう。私たちはどこからアイデアを得ているのかにもっと注意を払わなければならない(p.57, 183f)。最適なつながりの深さは、イートロという金融取引サービス上のトレーダーたちのつながりと投資利益率の分析を例にして語られる。

エコー・チェンバーの分析は、市場というシステムへの問題提起につながっているのが面白い。市場は無制限の買い手と売り手が存在するシステムで、競争性に基づいている。誰もがつながることのできるこの市場システムは、著者から見ればつながりすぎた世界である。それよりも、買い手と売り手が制限されている、安定と信頼性に基づく交換ネットワークのほうが人間にとっては自然状態であるという(p.234-241)。交換ネットワークは市場と同じようにモノを平等に分配することができるし、外部から耐えられる衝撃に対しても強いとの主張。商社や卸といって存在がこうした交換ネットワークの担い手なのだろう。ただ、こうした中間者が権力を持ちすぎること(これはエコー・チェンバーにつながるだろう)や、非効率性、ロングテールや新しいものを扱えないこと(探求が不足すること)、などから交換ネットワークは市場に変わられてきた歴史がある。それとどう調和するのだろう。

コミュニティや組織とは、著者のイメージでは、アイデアの流れの中を航海する人々の集団である。アイデアの流れは速さが変わったり、局所的に滞留したり、また分岐したりする。人々はこの流れの中を行く船に乗っている。それぞれの組織にはそれぞれ固有のアイデアの流れが存在する。アイデアの流れの速さが適切である場合、その集団に属するメンバーは孤立して行動している場合よりも、優れた意思決定を行えるようになる(p.60f)。実際の企業組織において、誰が誰と話しているかを近接センサーを使ったソシオメトリック・バッヂで計測。その研究から、パフォーマンスの高い組織と低い組織の間にあるパフォーマンスの差のおよそ50%は、組織内にある交流のパターンによって決定されるという(p.129f)。ポイントは、交流のパターンそのものが重要だということ。ソシオメトリック・バッヂは会話の内容は取得していない。すなわち、集団のパフォーマンスに大きく影響を与えるのは、個人の個性、スキルなどではなく、アイデアの流れのパターンそれ自体。特に、集団の知性を予測するのに最も役立つのは、会話の参加者が平等に発言してるかどうかである(p.110f)。個人の資質や、コミュニケーションの質はさほど問題ではない。ある特定の行動を既に行っている仲間に接触した量が、接触した個人が同じ行動をとるようになるかどうかを予測する優れた指標になる。社会物理学が機能する根本的理由はここにある(p.317)。

アイデアの流れの最適条件をうまく使うことにより、効率よくネットワークを動かすことができる。面白い例はレッドバルーンチャレンジ。これはアメリカ中の何処かに設置された計10個の赤い気象観測用気球を探すタスク。著者たちは、バルーンを見つけた人に賞金を与えるだけでなく、バルーンを見つけた人を紹介した人、その紹介した人を紹介した人などにも賞金を与える設計をした。これはネットワークを活用した、ソーシャルネットワークインセンティブの仕組み。例えばアマゾンのメカニカルタークだったら個々人が独立してつながっておらず、こうしたインセンティブは産まれない。仲間同士の助け合いやベストプラクティスを学ぶような、エンゲージメントを生み出す面白い例(p.147-152)。

こうしてソーシャルネットワークを通じたアイデアの流れを分析すれば、1平方マイル当たりGDP、特許が生まれる率、犯罪率など都市生活に関する様々な数値なども予測することができる(p.198f)。人々がどんなネットワークに属しており、どの人々と交流しているかを知れば、都市や社会の効率化に大いに役立つ。最適な交通網、電力消費、犯罪、インフルエンザの流行、等。社会物理学はデータ駆動型都市、データ駆動型社会を生み出す。まさにこれはパーソナルデータによるニューディール。

ただ個人がどこに行き、誰と交流しているかのデータは極めてパーソナルなものだ。プライバシーを守りつつデータを活用するために、著者はまず、パーソナルデータは価値のある個人資産として所有権を認めることを提唱している(p.214-216)。オプトインを基本としつつ、パーソナルデータを安心して委託できる、データ委託ネットワークが必要と説く。その例としてオープンPDSシステムを提案している(p.223f)。
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プロフィール

坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)

Author:坂間 毅 (Sakama Tsuyoshi)
数学の哲学を専攻して研究者を目指し、20代のほとんどを大学院で長々と過ごす。
しかし博士号は取らずPh.D. Candidateで進路変更。
哲学と特に関係なくIT業界に住んでいる。

別館:アマゾンのレビューページ

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