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井上清『明治維新』


王政復古の大号令(1867年12月)から西南戦争の終結(1877年9月)までを描く。人物を活き活きと描き出しており、とても読みやすい。例えば、冒頭の王政復古にまつわる小御所会議では、前土佐藩主山内容堂を中心に描く。徳川家を明治新体制にどこまで残すかについて公議政体派と、すべてを一新しようとする大久保利通や西郷隆盛の考えの対立を、容堂の視点から活写している。徳川慶喜による巻き返しに対して、西郷は江戸での擾乱作戦を実行。幕府側は西郷の謀略に嵌り、鳥羽・伏見の戦いへ至る(p.54-58)。

こうして新政府は徳川体制を根本的に否定することとになる。新政府は倒幕戦に踏み切ったことで、はじめて外国から国交を引き継ぐ主体として承認された(p.89-91)。これが幕府を温存したままでは、外交権は幕府側に残ったままだったろう。全般的に西郷の戦略家ぶりが鮮やかに描かれている。とはいえ、彰義隊討伐(1868年5月)では西郷は中途半端な対策に終わる。結局、大村益次郎が江戸に到着してから討伐が行われる。西郷でははぜできなかったのか。無血開城でおごっていたとの記述もある(p.126-128)。

新政府と幕府側の違いとして、民衆の支持がポイントとして扱われている。これは本書が書かれた時代(1965-1967)のマルクス主義的背景もあるかもしれない。とはいえ、地租の軽減などで積極的に民衆の支持を取り込んだ新政府と、完全にそっぽを向かれた幕府側。それは情報戦や兵站線の構築などで差として現れる。榎本武揚の蝦夷地統治にもこの視点がある。新政府の倒幕派に対して、榎本武揚は民衆の心をつかめていない。蝦夷地で近代農法の輸入を図るため、プロシャ人ゲネトネルに土地の99年間の租借を許す。外国の支持を獲得するに熱心で、足元の民衆を無視している。地元の商業資本からも見放された。榎本が敗れる一因と指摘されている(p.139f)。

しかしながら明治維新は民主革命ではない。自由民権の考えはまだ根付いておらず、まして指導者層にそれを進める考えもない。倒幕後は以前のような民衆への負担軽減はおろか、新政策の実行のために負担をむしろ増加させる。民衆からの反発は起こるも、すでに権力をにぎった大久保や木戸には、人民の負担を軽くし、権利を認めて支持をもう一度確保するつもりはない(p.158-161)。地租改正も秩禄処分も、こうした文脈にある。これらの政策は貧農や下級武士を没落させ、地主や華族を富ませていった。新政府の政策により貧富の差が広がっていく。しかしこのことは、近代的な資本家を準備したことになる(p.260-269)。

没落した下級中級士族の不満を西郷隆盛がすくい、西南戦争へつながっていくのはよく知られたストーリー。西郷は新政府で全国的な政策を指揮するより、薩摩藩の改革に挑む。その骨格は下級中級士族による軍事独裁政権である。西郷の思想は下級中級士族による軍事独裁政権の樹立であったと説く(p.165-168, 209-212)。一方で新政府の政策を支持する思想もある。福沢諭吉は御用学者的に書かれている。福沢は新政府に都合の良い理論を展開しており、人民主権論を主張しているに見えて官僚専制を合理化している(p.282-285)。

欧米に対する苦しい外交交渉を、日本の立場を守りつつ改善していく様が描かれる。日本が植民地とならなかったのはこうした交渉のおかげだ。一方、明治政府の対外政策で大きな軸となるのが征韓論。新政府の国権外交は欧米には屈従しながらも、朝鮮・清国には強硬な態度を取り続ける。清国への態度は、征韓の布石と見られている。征韓の考えは維新から一貫しており、朝鮮はその野心を警戒し続けていた(p.345f)。ただこの征韓の思想がどこから来たか、本書に解説がなく、不足感がある。なぜ政府の誰もが征韓論に捕らわれてíたのか。

征韓論論争は、本質的には対外的なものというよりも、政府内部の権力闘争として位置づけられている。西郷・板垣は征韓論を唱えながら、軍部に話を伝えていない。本当に韓国に攻め込むのなら、軍事的な検討は必須のはずだ。明治6年の征韓論は対朝鮮政策というより、国内の権力闘争である。そしてこの権力闘争の結果、西郷や板垣は政府から退き、大久保の独裁体制が確立される(p.365, 442f)。

明治政府の独裁で始まった改革は、それが建前とした自由民権の思想が実際に広まっていく過程となる。大正デモクラシーが準備される。明治7年1月に民撰議院設立の建白書が出て、思想言論界は大活況となる。突然に活況となったのではなく、自由と民主主義の理論を容易に受け入れる素地が十分にあったということ。それは当時の知識人の教養の基礎としての漢学だった(p.418-424)。
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