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森田健司『明治維新という幻想』


視点の相対化のために。明治維新後の歴史観は、江戸時代を悪しきものとして描き、維新によって良くなったのだとしている。本書はこの歴史観を相対化し、いくつかの話題をエッセイ的に扱っている。新政府軍に対する庶民の受け止め方、桑名藩・会津藩など新政府軍と大きく敵対した人たち、幕末の三舟(勝海舟、山岡鉄舟、高橋泥舟)、そして維新の三傑(木戸孝允、大久保利通、西郷隆盛)について。

新書ベースであり詳細な議論ではないものの、ちょっと議論のレベルが浅い印象。庶民の反応については、風刺錦絵を庶民の論拠としている(p.38-43)。しかし風刺錦絵は判じ物であり、その解読は謎解きだ。ということは、いかようにも勝手に読み込める。本書の錦絵の読解の仕方もかなりアクロバティックで、そう言われればそう言えるといったレベルのもの。それが正当な読みなのかは本書からは分からない。風刺錦絵は従来アカデミックな関心の埒外にあったもの、としているが、そりゃそうだろう。また上方の商人は新政府軍を支持するでもなく、戦によって日常を乱されたことを怒っている(p.29,35)と書いているが、こうした商人たちは形勢が判明するや、いち早く勝ち馬に載ったのも確かである。

新政府軍に敵対した人たちは、長岡藩、桑名藩、会津藩、庄内藩を上げる。とはいえ、ほぼ出来事をなぞっているだけだ。ここには庶民の受け止め方とか、むしろこれらの藩が成し遂げようとしたことなどは見えてこない。会津藩処分についての恨みたらしい記述がある(p.99-103)が、それがどうしたのかという印象。幕末の三舟、維新の三傑についてもあまり面白い記述はない。大久保利通の絶対的権力への志向や、西郷隆盛の軍事独裁政権への破壊的志向もむしろ、意外というより違和感がない。

戊辰戦争は最も無意味な戦争で、日本史の最暗部(p.228)だと著者は記す。残念ながら、その無意味さはまったく伝わらなかった。旧勢力が中途半端に力を残していたら新政府が新しく官僚国家体制を整えることなどできなかったし、諸外国からも正当な政府と承認されず、植民地支配の流れに巻き込まれていただろう。戊辰戦争はとても意味のあった内戦だと思われる。また、話し合いをしようとしていた旧幕府軍を戦争に誘い出した点で戊辰戦争が異様と書く(p.172)。まさか、そんなの革命でよくある話だ。フランス革命、ロシア革命など敵対した旧勢力を命乞いも受け入れずに殲滅したのはこうした歴史の常である。むしろ異様なのは、旧勢力のトップだった徳川慶喜を存命させたり、榎本武揚や勝海舟など旧勢力側の有力者を登用することだ。

そもそも明治維新は幕府の悪弊を打ち破るために立ち上がり、近代国家への明るい道を開いた正義の試みだという観点を自分がまったく持っていないということだろう。というよりも、そうした歴史観の人はいまどれくらいいるのか。著者は空想の敵と戦っているのだろうか。
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